データサイエンティストのひよこ

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投資のリターンと効果測定2:内部収益率法

投資のパフォーマンス測定に因果推論的な視点を見出し、ちょっと仕事にしている。見出しただけで、本当に関連付けられるかについてはよくわからない。あくまで因果推論でよくやる方法のように、ある投資(介入)の効果を測定するために、マクロトレンドをさっぴいて本当の投資家の手腕を図るという点に注目していく。これの測定を目指した方法が、いくつかあるので簡単に紹介していく。

まず、リターンを簡単に紹介した。リターンは、投資開始年の投入金と、投資終了年の分配金の比としたが、実際の投資での資金流出入は、複雑であることが多いため、リターンの計算方法も、実際は複雑である。


”複雑”な例として、次の表のような資金の流出入を考えよう。

年度 第0年度末 第1年度末 第2年度末 第3年度末 第4年度末
投資家 -1000 100 -200 450 850

 投資家とファンドの資金のやりとりを表し、0年と2年目に資金を投入し、1,3,4年で分配金を得ていることを表している。4年目にファンドからすべて投資金を引き上げ、投資を終了している。投資開始時に、資金投入があるのはもちろんだが、投資というのは最初の年以外にも再投資する機会があったり、何年かに分けて、その投資金を基に分配金や配当金として返ってくることがほとんどだ。総額1200を投入して、1400の分配を得ていることになる。総額同士 1400÷1200-1の割り算だけだと16%のリターン、年率だと4%程度と計算される。最初の年と最後の年で合算してしまって計算する方法は考えられる範囲で簡単だし、その計算で間違っているわけではない。ただ、金額を合算した結果が同じだが、資金流出入のパターンが異なる次のような投資家同士を比較する場合はどうだろうか。

年度 第0年度末 第1年度末 第2年度末 第3年度末 第4年度末
投資家1 -1000 100 -200 450 850
投資家2 -1200 350 350 350 350
投資家3 -1150 750 500 -50 150

同じ期間の投資で同じ合算金額の結果でも、分配が返ってくる時期が、終盤、均等、早期と偏っていることをリターンでうまく表現しなければならない。そもそもとして、同じ金額であればできるだけ早期に分配金を得られたほうが、別の投資に回せたり、自由資金が増えるので価値が高いと考えることが普通である。このような投資成果のリターンを計算する方法の代表的なものに内部収益率というものがある。具体的には投資開始年を基準年として、各年度で発生する金額を基準年の価値に換算しなおしてリターンを計算する。このときのリターンは割引率などとも呼ばれる。

具体的な考え方は非常に簡単で、 A円を年率 rで運用した時、1年後には A(1+r)になっている、 k年後には A(1+r)^kになっているという簡単な事実を利用する。つまり、ある投資中の k年目に、 B円の価値があるものは、投資の基準年では B/(1+r)^kの価値がある(あったもの)として、基準年の価値に換算する。同じ100万でも、10%の利回りで運用するのであれば、投資開始1年で発生する100万は現在の91万ぐらいで、10年後に発生する100万は現在の39万ぐらいの価値となる。このようにして、各年度の金額を基準年に割り戻す(換算する)。

 C_0+\frac{C_1}{(1+r)}+\frac{C_2}{(1+r)^2}+\cdots+\frac{C_k}{(1+r)^k}=0

 C_iは、先ほどの表での金額を表す。資金を投入するときはマイナス、分配のときはプラスの値をとる。さて、先ほどは10%といきなり例を出したが、 rはこの方程式の解を求めるというめんどくさいことをして求値する*1。この rは、将来(基準年以降)発生する金額を基準年の価値に換算して足したら、投資金額と等しくなるような率である。
たとえば、上の式を使って、前述の3つの例含めさまざまなリターンを計測してみると次のようになる。

C_0 C_1 C_2 C_3 C_4 リターン
投資家1 -1000 100 -200 450 850  r=5.06%
投資家2 -1200 350 350 350 350 r=6.47%
投資家3 -1150 750 500 -50 150 r=10.61%


具体例として、投資家1の場合は
 -1000+\frac{100}{(1+r)}-\frac{200}{(1+r)^2}+\frac{450}{(1+r)^3}+\frac{850}{(1+r)^4}=0
の方程式をrについて解くことで、リターンの値を得ている。式自体はごつくとも、求めるだけならExcelにもIRR関数がすでに用意されているし、計算してくれるWebサイト*2もあるので、難しくない。この方法で、資金パターンで投資の効率性を測るということがどういうことかがわかっていただけたと思う。

基本的には、多くの投資のリターンは、このIRRという指標で測られることが多い(というか定められている)。実際には、キャピタルコールと呼ばれる、初年に資金を拠出するタイプの投資(インカムゲインが中心の投資)では有用であるが、継続的に売買が発生する投資タイプではあまり向かない。つまり、プライベート・エクイティ(PE)ファンドへの投資だったり、不動産投資とかの投資効果を計測したいときには有用と考えられている。ただ、IRRでは、前回説明したマクロトレンドのβと個別要因のαがうまく分離できていないのも問題で、景気のいい年度に始めた投資と景気の悪い時に始めた投資では、あからさまに景気の影響でリターンが変わってくる。なので、少なくとも時期の異なる投資家同士の手腕をこのIRRで比較することは簡単ではない。

これを解決するのに、公開市場比較法という方法がある。IRRが自身の資金流出入だけを見て計算することに対して、日経平均とかS&Pとかと比較しながら、リターンを計算し、個別の投資がどれだけアウトパフォームしたかを評価する方法である。これも次の記事に書いていきたい。

さて、最後になってしまったがこのテーマを選んだ大きな理由の一つとして、因果推論や効果検証っぽいテーマにつながりそうなので、手法として類似点がないかを探していくことだった。たとえば、広告に対する反響を計測するデータ分析がよくあるが、広告を打った後に、ぽつぽつ反響顧客がやってくる様子を同じように計算できないかと考えたりしているが、なかなかに難しい。金融の世界や金融工学では、ある程度共有されているモデルや考え方があり、ぽんっと仮定された数式を出すことに抵抗がないが、データサイエンティストの領域だと、モデルの是非から議論が白熱することも多い。広告に関しての適用を考えてみたので別の記事で紹介したい。

*1:高次の多項式なので、解が存在しないことがあったり、解が複数出てきたりもするので方法として取り扱いづらいところもある

*2:内部収益率(IRR)電卓 | 毎日の電卓