投資のリターンと効果測定2:内部収益率法
投資のパフォーマンス測定に因果推論的な視点を見出し、ちょっと仕事にしている。見出しただけで、本当に関連付けられるかについてはよくわからない。あくまで因果推論でよくやる方法のように、ある投資(介入)の効果を測定するために、マクロトレンドをさっぴいて本当の投資家の手腕を図るという点に注目していく。これの測定を目指した方法が、いくつかあるので簡単に紹介していく。
まず、リターンを簡単に紹介した。リターンは、投資開始年の投入金と、投資終了年の分配金の比としたが、実際の投資での資金流出入は、複雑であることが多いため、リターンの計算方法も、実際は複雑である。
”複雑”な例として、次の表のような資金の流出入を考えよう。
年度 | 第0年度末 | 第1年度末 | 第2年度末 | 第3年度末 | 第4年度末 |
---|---|---|---|---|---|
投資家 | -1000 | 100 | -200 | 450 | 850 |
年度 | 第0年度末 | 第1年度末 | 第2年度末 | 第3年度末 | 第4年度末 |
---|---|---|---|---|---|
投資家1 | -1000 | 100 | -200 | 450 | 850 |
投資家2 | -1200 | 350 | 350 | 350 | 350 |
投資家3 | -1150 | 750 | 500 | -50 | 150 |
具体的な考え方は非常に簡単で、円を年率で運用した時、1年後にはになっている、年後にはになっているという簡単な事実を利用する。つまり、ある投資中の年目に、円の価値があるものは、投資の基準年ではの価値がある(あったもの)として、基準年の価値に換算する。同じ100万でも、10%の利回りで運用するのであれば、投資開始1年で発生する100万は現在の91万ぐらいで、10年後に発生する100万は現在の39万ぐらいの価値となる。このようにして、各年度の金額を基準年に割り戻す(換算する)。
は、先ほどの表での金額を表す。資金を投入するときはマイナス、分配のときはプラスの値をとる。さて、先ほどは10%といきなり例を出したが、はこの方程式の解を求めるというめんどくさいことをして求値する*1。このは、将来(基準年以降)発生する金額を基準年の価値に換算して足したら、投資金額と等しくなるような率である。
たとえば、上の式を使って、前述の3つの例含めさまざまなリターンを計測してみると次のようになる。
リターン | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
投資家1 | -1000 | 100 | -200 | 450 | 850 | ||
投資家2 | -1200 | 350 | 350 | 350 | 350 | ||
投資家3 | -1150 | 750 | 500 | -50 | 150 |
具体例として、投資家1の場合は
基本的には、多くの投資のリターンは、このIRRという指標で測られることが多い(というか定められている)。実際には、キャピタルコールと呼ばれる、初年に資金を拠出するタイプの投資(インカムゲインが中心の投資)では有用であるが、継続的に売買が発生する投資タイプではあまり向かない。つまり、プライベート・エクイティ(PE)ファンドへの投資だったり、不動産投資とかの投資効果を計測したいときには有用と考えられている。ただ、IRRでは、前回説明したマクロトレンドのβと個別要因のαがうまく分離できていないのも問題で、景気のいい年度に始めた投資と景気の悪い時に始めた投資では、あからさまに景気の影響でリターンが変わってくる。なので、少なくとも時期の異なる投資家同士の手腕をこのIRRで比較することは簡単ではない。
これを解決するのに、公開市場比較法という方法がある。IRRが自身の資金流出入だけを見て計算することに対して、日経平均とかS&Pとかと比較しながら、リターンを計算し、個別の投資がどれだけアウトパフォームしたかを評価する方法である。これも次の記事に書いていきたい。
さて、最後になってしまったがこのテーマを選んだ大きな理由の一つとして、因果推論や効果検証っぽいテーマにつながりそうなので、手法として類似点がないかを探していくことだった。たとえば、広告に対する反響を計測するデータ分析がよくあるが、広告を打った後に、ぽつぽつ反響顧客がやってくる様子を同じように計算できないかと考えたりしているが、なかなかに難しい。金融の世界や金融工学では、ある程度共有されているモデルや考え方があり、ぽんっと仮定された数式を出すことに抵抗がないが、データサイエンティストの領域だと、モデルの是非から議論が白熱することも多い。広告に関しての適用を考えてみたので別の記事で紹介したい。